南十字に戯れる

サザンオールスターズ&桑田佳祐ライブデータ・セットリストを収集・公開しています

サザンのデビューコンサートで披露された謎曲『I See My Life…』とは何か?

 

サザンのデビューコンサート「胸さわぎ」のセットリストが公式サイトに残されています。当時はまだ数の少なかったオリジナル曲を補うかたちで洋楽カバーが多数披露されているのですが、その中の7曲目『I See My Life…』について、どう探してもそんな原曲を見つけることができず、そもそも存在しない曲なのでは…?という疑念が拭えませんでした。タイトルの意味するところも判然とせず、カバー曲の合間に未発表のオリジナル曲を披露した線も考えにくいところ。君は一体誰なの?

これに関して、有力な手がかりが発見されました。1978年10月に発足した公式ファンクラブ・サザンオールスターズ応援団の会報「かわら版」です。現在の「代官山通信」の原型ですね。

 

 

第3号には東京・九段会館公演のレポートが掲載されており、当該の曲についても言及がありました。

次は皆んなで声を合わせて"I shall be released"マネージャーの畠中さん扮する黒子が大きなテレビをもって舞台中央へ。プレスリーから始まって、大物まね大会、煙(タバコの)を吹き上げて、キッス、エリック・クランプトン……。「アンタにー…。」遂に出ました世良君、ファンは大よろこび!会場一体となって"I see my Life…。"の大合唱!!雰囲気は一転して、聞かせるムード"Bluse""Get Back""Young Blood"をメドレーで迫り会場も陶酔…。

文意を察するに『I See My Life…』の1つ手前で披露された『I Shall Be Released』のサビの「I see my light come shining…」を観客と一緒に合唱する一幕があったと読むことができます。おそらく書き手の手元に資料などはなく、会場で見聞きした内容をそのまま書き記したのでしょう、結果として生まれたのがlight→Lifeの聞き違い。他にも"クランプトン"や"Bluse"といった表記が見られるように、これら自体は当時の読み物によく見られる揺れ方であり、珍しいものではありません。

問題は後年にセットリストを書き起こすにあたってこのレポートを参照したであろう、担当者の読み間違いにあります。二重鍵で括られた表記を即ち曲名と解したのでしょう。かくして生まれた『I See My Life…』という架空の演奏曲、誤植と誤読の合わせ技が生んだ真冬の蜃気楼でした。書き起こされたセットリストは底データとして現在まで40年以上綿々と引き継がれ、現在の公式サイトやデータブックに掲載されるに至ります。

幽霊の正体見たり枯れ尾花。さながら伝承の中でのみ存在する怪異のように、『I See My Life…』はこれからもサザン史の片隅で生き続けることでしょう。