南十字に戯れる

サザンオールスターズ&桑田佳祐ライブデータ・セットリストを収集・公開しています

レコーディング日誌に残された未完成曲の行方を考える

かつてサザン公式サイトにはレコーディング日誌というコンテンツがありました。

歌舞伎町ライブが一段落した1999年10月から2000年秋頃までのレコーディングの様子が、スタッフの目を通して克明に記録されており、大変読み応えがあります。

現在はアーカイブサイトを通してのみ閲覧が可能。

http://web.archive.org/web/20020624052122/http://www.jvcmusic.co.jp/sas/diary/index.html

 

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曲で言えばTSUNAMI』『HOTEL PACIFIC』『この青い空、みどり~BLUE IN GREEN~』の時期ですね。

それほどのボリュームでもないので移動中にでも読んでいただくのが早いのですが、未完成の楽曲がM-1、M-2のようにナンバリングされて本文中に登場します。読み進めていくにつれ次第に曲が形作られ、詞が出来上がり、タイトルが附され、レコーディング、トラックダウン等の諸作業を経て完成…するわけですが、完成に至らず終わる曲が複数存在していることに気付きます。

 

M-1 → ?

・M-2 → 通りゃんせ

・M-3 → ?

・M-4 → ?

・M-5 → TSUNAMI

・M-6 → ?

・M-7 → HOTEL PACIFIC

・M-8 → インディアン狂想曲*1

・M-9 → チャイナムーンとビーフン娘

・M-10 → この青い空、みどり~BLUE IN GREEN~

 

レコーディングが進められていたM-1、M-3、M-4、M-6は、本文中で完成を迎えることはありませんでした。そのまま没となった可能性も高そうですが、もしかしたら後年発表された楽曲の原型ではないか?というのが今回の本旨です。

 

日誌に書かれている各曲の特徴から考えてみる。まずはM-1

桑田本人はスパニッシュ・ポップス的な雰囲気を十分に感じさせながら、ドラムループを使って異空間ものに仕上げていく方向性を考えていたようだが、この日の作業でドラムループは打ち込みのパターンに変更になっている。(10月1日)

 M-1のハープのダビングからスタート。朝川氏(渚園でのLIVEにも参加)のこの楽曲に対するアプローチに桑田本人、想像以上の手応えを感じた様子。(10月5日)

 朝川氏とはハープ奏者の朝川朋之さん。

この方のお名前がクレジットにあればその曲なんじゃないの?ということで、「キラーストリート」(2005年)頃までを範囲と仮定し調べてみると、『可愛いミーナ』『夢に消えたジュリア』の2曲が該当しました。

キラーストリート」初回版付属のライナーノーツによると『夢に消えたジュリア』のレコーディング開始日は2004年4月12日なので除外してもよさそう。この日付も何を基準にしたものなのか不明なので、原型が1999年時点で存在していても不思議ではないのですが、これ以上の手がかりもなさそうなので

 

M-1 → 可愛いミーナ

 

Q.E.Dということにしてしまおう。

 

M-3、M-4は本文中に登場するものの具体的な言及はなく、ヒントが見当たらない。同じく「キラーストリート」からレコーディング開始日が日誌の時期(=「4曲程手をつけている新曲がある」1999年10月時点)と合致する曲を探してみると、『雨上がりにもう一度キスをして』(1999年9月1日)『DOLL』(1999年9月9日)が見事に該当しました。ということで

 

・M-3 → 雨上がりにもう一度キスをして or DOLL

・M-4 → 雨上がりにもう一度キスをして or DOLL

 

でFAということにしてしまおう。 

 

で、残るM-6が非常に気になるところ。

M-6は簡単に言えば“『この青い空、みどり』になる予定だった曲”でしたが、完成間近に飛び出た桑田さんのコレジャナイ感により放棄されるという経緯を辿ります。

スペインにて購入したガットギターをフューチャーし、全体にサザン的ポップ感がよく表れたミディアムのラブソング。無論まだ歌詞は存在していない(仮歌の中に部分的に日本語がちりばめられている状態)のだが、ラブソング以外に形を成す事は想像しがたいムードを醸し出している曲である。
この日は打ち込みによるDrumのFill及びパーカッションの部分的修正を行い、シンセでシュミレートされていたストリングスをお馴染み島 健さんにアレンジをお願いする事で生ストリングスに差し換える、という方針を決めた。(2000年6月13日)

島健さんによるストリングスが入り、かつ「ラブソング以外に形を成す事は想像しがたいムード」という点に想像が巡ります。2001年~2002年の桑田佳祐ソロワークスには島健さん参加曲はゼロなので、「キラーストリート」該当曲のいずれかであると考えたいところ。ライナーノーツ記載のレコーディング開始日と時期が違うやんけ、という問題は依然つきまといますが。。

うろ覚えですが2006年時点でストックは出し切ったという旨の発言があったと思うので、やはり範囲を「キラーストリート」までに絞ります。ということで候補は

 

・涙の海で抱かれたい~SEA OF LOVE~

・殺しの接吻 〜Kiss Me Good-Bye〜

・LONELY WOMAN

・夢に消えたジュリア

・限りなき永遠の愛

・ひき潮~Ebb Tide~

 

の6曲に絞られました。

「全体にサザン的ポップ感がよく表れたミディアムのラブソング」の印象を踏まえると『殺しの接吻』『限りなき永遠の愛』『ひき潮』あたりは可能性が薄そうです。あとはもうフィーリングで選ぶしかないのか…

桑田さんはあまりアイデアを眠らせておくタイプではないと思うので、最もリリースの近い『涙の海で抱かれたい』を推したいと思います。

ということで下記でカードセット&ターンエンド。

 

M-1 → 可愛いミーナ

・M-2 → 通りゃんせ

・M-3 → DOLL

・M-4 → 雨上がりにもう一度キスをして

・M-5 → TSUNAMI

・M-6 → 涙の海で抱かれたい~SEA OF LOVE~

・M-7 → HOTEL PACIFIC

・M-8 → インディアン狂想曲

・M-9 → チャイナムーンとビーフン娘

・M-10 → この青い空、みどり~BLUE IN GREEN~

 

M-4はハワイでもレコーディングを行った旨の記述があるので、『DOLL』よりは『雨上がりにもう一度キスをして』のほうがまだハワイのイメージに近いかな…という無理やりな理由でM-3、M-4を決めました。

都合のいい解釈ですが、ひとまず思考を結実させることはできたので満足です。

 

真実は桑田佳祐のみぞ知る。

*1:「虫歯のブルース」部分は別とのこと